【プロローグ無料立ち読み】初恋!アップルフレーバー1 -桜と紅茶と生徒会-

 

プロローグ

 

 柔らかな風が頬を撫でていくのが心地良い。
 頭上に広がる薄桃色の花が作る木陰で寝転び、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。薄く開けた視界に、優しい光が眩しい。
 しばらくそのまま春の暖かな光景をぼうっと見上げていた私は、その時になってようやく自分の隣に腰を下ろす人影に気が付いた。
「……え?」
おかしい。自分は一人でいたはずなのに。
思わず声を漏らしたけれど、少年はこちらに気付きもせず手元の本を読みふけっている。
 とても綺麗な少年だ。逆光になってしまい顔はよく見えないが、座っていてもわかる長い手足と、風に揺れてきらきらと春の日差しを反射する、柔らかそうな黄金色の髪。制服は中等部の物の様だ。
 一瞬見惚れてしまっていた私の視線を感じたのか、ふと少年が顔を上げ、こちらに視線を向けた。
 二人の間に、暫くの沈黙。
 さあっと風が桜を揺らして、ついでに私の髪に降り積もった花弁も攫っていく。
 その頃にはやっと思考も追い付いてきて、見ず知らずのこの少年に寝顔を見られていた事実まで辿り着いた私は、むすっとしたまま桜の花びらを纏わせて上体を起こした。
「……こんな所で何してるのよ」
不機嫌と警戒心を隠しもしないでそう尋ねれば、少年はすっと視線を手元の本に戻す。そのまま何も答えないのかと思いきや、少年は本に視線を落したまま静かに唇を開いた。
「君を見ていた」
「……」
人の寝顔を見ていたことを、こんなに堂々と答えられる人なんて初めて見た。
 呆れるやら感心するやらでどう答えればいいのか逡巡していると、今度は少年が先程と同じ感情の薄い口調で尋ねてきた。
「君こそ、入学式早々敷地内で居眠りなんて、怖いもの知らずだな」
「私は寝坊した友達を待っていただけ! ……うっかり眠っちゃったけど、さぼるつもりなんてないわ!」
思わずむきになって少年を睨み付けると、彼は、「ああ」と納得したように頷いてちらりとこちらを見た。
「友達って長い金髪のおっとりした女の子か? しばらく前に君を見つけて、先に行ったみたいだけど」
「……は?」
まさかあの子、私を起こしたら可哀相とかまた変なこと考えて⁈
 驚いて固まってしまった私の背後で、おそらく式の予鈴なのだろう、鐘の音が響いてくる。
「ほら。早く行かないと本当に入学式さぼることになるぞ」
少年がのんびりと、急いでもいないような口調で言うのを最後まで聞かずに、私は急いで立ち上がると校舎へ向けて駆けていく。

 角を曲がる寸前で振り返ると、少年は変わらずあの桜の木の下で読書をしているようだった。

   

――あれから、1年。
栄光なる移動王国の王立学園には、またあの薄桃色の花びらが舞い散っていた。

  
初恋!林檎風味特設ページに戻るにはこちらから→初恋林檎50